
気持ちよくアクセルを踏み込んで巡航しているクルマに,隣車線からすっと車線変更する,あるいは,500m とかの遙か後ろから猛スピードで追い上げて,その後はぴったり等間隔でしばらく走行.ふとあるタイミングで屋根から赤色灯が登場,その何秒かあとにけたたましいサイレン,続いて「12-34 の運転手さん,左車線に寄って減速してください」といった拡声器でのアナウンス...
自分がその "クルマ" の当事者だったかどうかは別として,長いこと運転しているドライバーなら一度は見たことがある光景ではないでしょうか.こうしたときはほとんどが速度違反の取り締まりです.そのときに問題となるのが取り締まり方法.ネット上でもよく,「追尾方法に問題があった」云々の書き込みを見ます.具体的には,
道路交通法ならびに
道路交通法施行令によって以下のように定められています.
道路交通法
第三章 車両及び路面電車の交通方法
第二節 速度
(最高速度)
第二十二条 車両は、道路標識等によりその最高速度が指定されている道路においてはその最高速度を、その他の道路においては政令で定める最高速度をこえる速度で進行してはならない。
第七節 緊急自動車等
(緊急自動車の通行区分等)
第三十九条 緊急自動車(消防用自動車、救急用自動車その他の政令で定める自動車で、当該緊急用務のため、政令で定めるところにより、運転中のものをいう。以下同じ。)は、(緊急自動車の定義のための引用なので第二項を含め以下省略)
(緊急自動車等の特例)
第四十一条 (省略)
2 前項に規定するもののほか、第二十二条の規定に違反する車両等を取り締まる場合における緊急自動車については、同条の規定は、適用しない。
3 (省略)
道路交通法施行令
第三章 車両及び路面電車の交通方法
(最高速度)
第十一条 法第二十二条第一項の政令で定める最高速度(以下この条、次条及び第二十七条において「最高速度」という。)のうち、自動車及び原動機付自転車が高速自動車国道の本線車道(第二十七条の二に規定する本線車道を除く。次条第三項において同じ。)以外の道路を通行する場合の最高速度は、自動車にあつては六十キロメートル毎時、原動機付自転車にあつては三十キロメートル毎時とする。
(最高速度の特例)
第十二条 (省略)
3 法第三十九条第一項の緊急自動車が高速自動車国道の本線車道以外の道路を通行する場合の最高速度は、前条並びに第一項及び前項の規定にかかわらず、八十キロメートル毎時とする。
(緊急自動車)
第十三条 法第三十九条第一項の政令で定める自動車は、次に掲げる自動車で、その自動車を使用する者の申請に基づき公安委員会が指定したもの(第一号又は第一号の二に掲げる自動車についてはその自動車を使用する者が公安委員会に届け出たもの)とする。
一~一の五 (省略)
一の六 警察用自動車(警察庁又は都道府県警察において使用する自動車をいう。以下同じ。)のうち、犯罪の捜査、交通の取締りその他の警察の責務の遂行のため使用するもの
(緊急自動車の要件)
第十四条 前条第一項に規定する自動車は、緊急の用務のため運転するときは、道路運送車両法第三章及びこれに基づく命令の規定 (自衛隊用車両のただし書きは省略) により設けられるサイレンを鳴らし、かつ、赤色の警光灯をつけなければならない。ただし、警察用自動車が法第二十二条の規定に違反する車両又は路面電車(以下「車両等」という。)を取り締まる場合において、特に必要があると認めるときは、サイレンを鳴らすことを要しない。
第四章の二 高速自動車国道等における自動車の交通方法等の特例
(最高速度)
第二十七条 最高速度のうち、自動車が高速自動車国道の本線車道(次条に規定する本線車道を除く。次項において同じ。)を通行する場合の最高速度は、次の各号に掲げる自動車の区分に従い、それぞれ当該各号に定めるとおりとする。
一 次に掲げる自動車 百キロメートル毎時
イ~ホ (省略)
二 (省略)
2 法第三十九条第一項の緊急自動車が高速自動車国道の本線車道を通行する場合の最高速度は、第十二条第一項及び前項の規定にかかわらず、百キロメートル毎時とする。
要するに,
- 一般の普通車の場合,最高速度は,道路標識等により指示されている場合はその速度
- 一般の普通車の場合,道路標識等により指示されていない場合の最高速度は,高速道路では 100km/h・それ以外では 60km/h
- 緊急自動車の場合,最高速度は高速道路では 100km/h・それ以外では 80km/h
- 緊急自動車が最高速度違反取り締まりをしている場合,最高速度は制限なし
- 緊急自動車とは,サイレンを鳴らし,赤色の警光灯をつけたもの
- ただし,最高速度違反取り締まりをしている場合,緊急自動車であってもサイレンを鳴らさなくてもよい
ということになります.さらに簡単に言うと,冒頭のようなシーンにおいては,
最高速度違反取り締まり中であれば緊急自動車は何キロ出してもよいのですが,緊急自動車たるためには最低限赤色灯を点灯する必要があるという訳です.よって,冒頭のように,追尾中に赤色灯が点いていない場合はパトカー自身が違法行為を行なっていることになり,違法に収集された証拠は無効ですので,速度違反の取り締まりは成立しないというロジックです.警察もこうした違法行為にならないよう,停止を求めるまでの追尾・計測中は,グリル内に設置した,違反者からは見えづらい赤色灯のみを点灯し,屋根の反転式赤色灯は点灯しないといった運用をしている場合もあるようです.
(これ以外にも,記録した速度が,等間隔・等速度で追尾している際の速度ではなく,追い上げ中の速度であるといった指摘例もありますね)
メディアでもこうしたことが書かれている場合が多く,私もずっとそう思っていました.例えば,かなり古い資料ですが,1991.05.15 発行のスピード取締り実用ハンドブック '91 年度版 (ラジオライフ別冊,三才ブックス) に掲載されている「実体験でわかる取締り対抗テクニック〔実践編〕」という記事があります.ラジオライフ別冊というだけでまぁ 'アレ' な気もしますが
(^_^; 話を一応先に進めましょう.
この記事は,80km/h 制限の東名高速においてこの雑誌関係者がたまたま,18km/h オーバーの 98km/h で走行していたとして覆面パトカーに捕まった事例です.この事例では,追尾の方法が変だとか,明らかに 98km/h は出していないといった指摘もしているのですが,その中で:
その2~3秒間、覆面パトは赤灯を点滅させずサイレンを鳴らしていなかったので、道交法施行令第14条に定められている緊急自動車の要件「赤灯を点滅しサイレンを鳴らす」を満たしていなかったことになる。
ところが、道交法第41条2項では「速度違反をしてもよいのは速度違反のクルマを取締っている緊急自動車だけ」と決められている。もし、EDが速度違反をしていたとすると覆面パトは緊急自動車ではないにもかかわらず、自らも速度違反をしながらEDの速度を測定したことになる。
捜査機関が法律違反を犯して入手した証拠は裁判では無効になるという「違法収集証拠排除の原則」に従えば、覆面パトが自らも速度違反を犯して測定した「98km/hの速度記録紙」は、裁判上証拠として採用されない。
(一部略,文中のEDは違反車のカローラ ED のこと)
という主張をしていて,検察官にも説明しています.この点だけが勘案されたのではないでしょうが,この事例では検察庁に書類送検はされたものの,不起訴処分になったということを紹介しています.
ところが,一般道路において 60km/h 以下・高速道路で 100km/h で取り締まられるような場合 (例えば高速道の 80km/h 制限のところを 100km/h で走っていて 20km/h 超過の違反とされた場合で,まさに上で引用した例がこれにあたります) は,これら道交法・道交法施行令以外に適用される法令があり,赤色灯点灯・サイレン鳴動がなくとも合法的に速度測定されてしまうことがあることを何年か前に知りました.
それを可能としているのが全都道府県で個別に定められている条例です.具体的には,
道路交通規則とか
道路交通法施行細則として定められているもので,ほとんど同じ内容が全都道府県で規定されています.代表例として東京都の東京都道路交通規則から関係条文を引用してみます.
東京都道路交通規則
第1章 交通規制等
(交通規制の対象から除く車両)
第2条 法第4条第2項の規定により、交通規制の対象から除く車両は、道路標識により表示するもののほか、次に掲げるとおりとする。
(1) (省略)
(2) 最高速度の規制の対象から除く車両
ア 削除
イ 専ら交通の取締りに従事する自動車(最高速度の規制が、高速自動車国道の本線車道にあつては100キロメートル毎時、その他の道路にあつては60キロメートル毎時を超える場合を除く。)
すなわち,交通取り締まりをしているパトカーや白バイは,法定速度の規定には縛られるものの,制限速度は一切関係ないということになります (一部の高規格道路において法定速度を超える制限速度が指定されていますが,この場合はもちろん制限速度まで O.K.).
以上のことをまとめると,以下のような表になると思います:
Fig. 法令による最高速度
速度区分 |
高速道路 |
一般道路 |
法定速度超過 |
速 度 取 締 中 |
| 100km 超 |
速 度 取 締 中 |
| 80km 超 |
緊 急 自 動 車 |
| ~80km |
制限速度超~ 法定速度内 |
緊 急 自 動 車 | 交 通 取 締 車 |
| ~100km |
交 通 取 締 車 |
| ~60km |
制限速度内 |
一 般 車 両 | ~制限速度 |
一 般 車 両 | ~制限速度 |
* この表は制限速度が定められている一般的な (もっとも多くの) 場合.
** バイパス等で制限速度がなく法定速度のみの場合,交通取締車両と一般車両の最高速度は同じとなる.
*** 高規格道路において法定速度を超えて制限速度が定められている場合も ** に同じ.(……はず)
このうち,合法的にサイレン・赤色灯なしに取り締まりが行なわれてしまうのは制限速度超~法定速度内の部分.もし,法定速度を超えた部分で取り締まられた場合に,パトカー等が赤色灯を付けていなかったときは明らかに法令違反ですので,もし "戦う" つもりであれば,その点を指摘して反則切符への署名捺印を行なわない旨告げるといいでしょう.その場合でも,初めから違法な取り締まりだとかと言うのではなく,どうやって取り締まったか具体的な方法を警官から聞き出し,「速度測定して違反を現認してから赤色灯・サイレンを点けた」と警官自身に言わせるほうがよいと思います :-)
ただし,こうした違法な証拠収集を巡って最高裁まで争われた裁判において,「パトカーが赤色警光灯をつけずに最高速度を超過して速度違反車両を追尾した場合においても、(中略) 追尾によつて得られた速度測定結果を内容とする証拠の証拠能力の否定に結びつくような性質の違法はない」と原告敗訴になった判例があります (
1988.03.17,最高裁 昭和61(あ)390 判決).つまり,警察官による証拠収集 (取り締まり) 時の違法性と,違反とされた人の速度超過という違法性を較べた場合,後者の方がより重く,警察官に違法行為があったからといって速度違反取り締まりを違法とするほどでないというある意味トンデモ判決(;´Д`) それを認めるのならば,法律で認められていないおとり捜査だろうが盗聴だろうが何でもアリになるじゃないですか...
ただし,下級審では原告勝訴になった例もあるようで,判例としては確立していないかも知れません.いずれにせよ,本当に取り締まりが違法だった場合は,ただでさえ反則切符の処理ではなく本裁判に持ち込まれることを警察官は非常に嫌うようですので,反則切符には署名・捺印しないこと,略式裁判は拒否して本裁判で争う意志があることを表明した上で,出来れば警官が切符を書き始める前に違法性を認めさせるのが吉,と思います.なお,この場合でも彼らは "自分が間違っている" とは絶対に認めませんので (「
警察無謬の原則」),こちらの指摘を論理的に述べたら,「反則切符に署名・捺印するかしないかは任意ですから,私の意志において絶対に署名しません.あとは裁判所で話しますので,ご自由に手続きしてください」とでも毅然とした態度で通告して,あとは放置プレイしたほうがよいかも.
さて最後に,条例に話を戻しますが,それにしても,全都道府県でまったく同じ内容を定めている条例というのも意味がない気がします.今は全ての都道府県で簡単に条文を閲覧出来るようになっているのでまだよいですが,情報公開という点でも問題があると思うし,全都道府県共通ならば,この場合であれば道路交通法施行令で定めるべきだと思うのですが...
せっかく調べたので,各都道府県の道路交通規則 (もしくは道路交通法施行細則) へのリンク集を載せておきます.リンクがなく,例規集というリンクがあるものは,法令への直接のリンクが張れないものです (Google 等の検索にも引っかからなくなり,情報公開という観点からはどうかと思います).例規集からたどってください.
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Posted at 2008/09/06 15:11:29